はじめに
現代のビジネス環境では、情報の適切な共有とセキュリティ管理が重要です。特に、スタッフ間で共有すべき情報と、非公開にすべき情報を適切に管理することは、業務の効率化と情報セキュリティの両立に不可欠です。この記事では、Microsoft Power Automateを使用して、Dataverse for Teams(以下、Dataverse)のデータを情報共有の有無に応じて共同作業テーブルと非公開テーブルに振り分ける方法について解説します。
なお、この記事は、Power Automate を起動してフローを作成し、タスクを自動化するなど、ある程度Power Automate の基本操作ができる方を対象にしています。Power Automate の基本操作から学びたい方は、別途関連サイトや書籍を参考にすることをおすすめします。
背景と目的
Dataverseは、データの保存と管理を行うための強力なプラットフォームです。しかし、すべてのデータが同じアクセス権限で管理されるわけではありません。特定のデータはスタッフ間で共有する必要がありますが、他のデータは非公開にしておく必要があります。このようなニーズに対応するために、Power Automateを使用してデータの振り分けを自動化する方法を紹介します。
Dataverseのテーブル構成
Dataverse内に二つのテーブルを用意します。一つは「共同作業テーブル」、もう一つは「非公開テーブル」です。共同作業テーブルは、スタッフ間で共有する情報を保存するためのもので、非公開テーブルは、特定のユーザーのみがアクセスできる情報を保存します。
共同作業テーブル
共同作業テーブルは、スタッフ全員がアクセスできるように設定されており、共有すべき情報を保存します。例えば、プロジェクトの進捗状況や共有タスクなどが含まれます。このテーブルは、チーム全体の効率的なコラボレーションを促進します。
非公開テーブル
非公開テーブルは、特定のユーザーのみがアクセスできるように設定されており、機密情報や個人情報などを保存します。このテーブルは、情報のセキュリティを確保するために重要です。
フローの実装
フロー設定の概要
Power Automateを使用してデータの振り分けを自動化します。以下の手順で設定を行います。
フローの作成
Power Automateのポータルにアクセスし、新しいフローを作成します。フローのトリガーは、Dataverseのレコードが作成または更新されたときに設定します。これにより、新しいデータが入力された際に自動的に処理が開始されます。
条件の設定
フロー内で条件を設定し、情報共有の有無に応じてデータを振り分けます。例えば、レコードに「共有フラグ」が設定されている場合は共同作業テーブルに、設定されていない場合は非公開テーブルにデータを移動します。
データの移動
条件に基づいて、Dataverseの「作成」アクションを使用して、適切なテーブルにデータを移動します。この際、元のレコードを削除するか、ステータスを更新して非表示にすることも検討します。これにより、データの重複を防ぎ、データベースの整合性を保つことができます。
実装のメリット
この方法を実装することで、以下のメリットが得られます。
効率的な情報共有
スタッフ間で共有すべき情報が自動的に適切なテーブルに振り分けられるため、情報共有がスムーズに行えます。これにより、チーム全体のコミュニケーションが向上し、プロジェクトの進行が円滑になります。
セキュリティの向上
非公開にすべき情報が適切に管理されるため、情報漏洩のリスクが低減します。特に、個人情報や機密情報の保護が強化され、コンプライアンスの遵守が容易になります。
業務の効率化
手動でのデータ振り分け作業が不要になるため、業務効率が向上します。これにより、スタッフはより重要な業務に集中できるようになります。
実装の注意点
実装にあたっては、以下の点に注意が必要です。
アクセス権限の設定
Dataverseのテーブルに対するアクセス権限を適切に設定し、非公開テーブルへのアクセスを制限します。これにより、情報の不正アクセスを防ぎます。
データの整合性
データの移動に伴う整合性を保つため、フローのテストを十分に行います。テストを通じて、データが正しく振り分けられることを確認します。
エラーハンドリング
フロー内でエラーが発生した場合の処理を適切に設定し、データの損失を防ぎます。例えば、エラーが発生した場合に通知を送信する設定を行うことで、迅速に対応できます。
具体的な実装例
以下に、具体的な実装例を示します。
フローの手順
Power Apps → データ取得 ↓ [共有フラグ: 記録者のみ] ├── [共同テーブル存在チェック] │ ├ 存在しない → 非公開テーブルに追加 │ └ 存在する → 共同テーブル削除 → 非公開テーブル追加 ↓ [共有フラグ: スタッフ共有] └── [非公開テーブル存在チェック] ├ 存在しない → 共同テーブルに追加 └ 存在する → 非公開テーブル削除 → 共同テーブル追加
- Power Apps のアプリから必要なデータを受け取りフローを実行します。
- 共有フラグの「記録者のみ/スタッフ共有」に基づき、テーブルの処理を分岐します。
- ②で「記録者のみ」の場合、共同作業テーブルに当該データが存在するか確認します。
- ③で共同作業テーブルに当該データが存在しない場合、非公開テーブルに追加します。
- ③で共同作業テーブルに当該データが存在する場合、共同作業テーブルから削除し、非公開テーブルに追加します。
- ②で「スタッフ共有」の場合、非公開テーブルに当該データが存在するか確認します。
- ⑥で非公開テーブルに当該データが存在しない場合、共同作業テーブルに追加します。
- ⑥で非公開テーブルに当該データが存在する場合、非公開テーブルから削除して、共同作業テーブルに追加します。
ポイント
- 共有フラグを中心に、データの適切な分類・移動を制御する仕組みです。
- データの重複チェックとデータの移動(削除→追加)が鍵となるステップです。
- データの移動ではデータの整合性を保つためにトランザクション処理を行います。
実装例
① Power Apps アプリからデータを受け取り、フローを実行
- Power Apps アプリから送信されたデータをトリガーとしてフローが開始されます。
- アプリケーションからの入力データを基に後続の分岐処理を行います。
② 共有フラグ(記録者のみ/スタッフ共有)に基づく分岐
- 共有フラグの値に応じて、「記録者のみ」と「スタッフ共有」との場合で処理を分岐します。
③ 「記録者のみ」の場合、共同作業テーブルにデータが存在するかを判別
- 共同作業テーブルに既に同じデータが存在するかどうかを確認します。
- 存在しない場合:非公開テーブルに追加(次のステップ④)。
- 存在する場合:共同作業テーブルから削除し、非公開テーブルに移動(次のステップ⑤)。
④ 共同作業テーブルにデータが存在しない場合、非公開テーブルにデータを追加
- データが共同作業テーブルに存在しない場合、非公開テーブルに新しいレコードとしてデータを追加します。
⑤ 共同作業テーブルにデータが存在する場合、データを削除して非公開テーブルに追加
- 共同作業テーブルから該当データを削除し、非公開テーブルにデータを追加します。
- データの整合性を保つために「変更セット要求を実行する」によりトランザクション処理を行います。
⑥ 「スタッフ共有」の場合、非公開テーブルにデータが存在するかを判別
- 「スタッフ共有」が指定された場合、非公開テーブルに該当データが存在するかどうかを確認します。
- 存在しない場合:共同作業テーブルに追加(次のステップ⑦)。
- 存在する場合:非公開テーブルから削除し、共同作業テーブルに移動(次のステップ⑧)。
⑦ 非公開テーブルにデータが存在しない場合、共同作業テーブルにデータを追加
- 非公開テーブルに該当データが存在しない場合、共同作業テーブルに新しいレコードとしてデータを追加します。
⑧ 非公開テーブルにデータが存在する場合、データを削除して共同作業テーブルに追加
- 非公開テーブルから該当データを削除し、共同作業テーブルにデータを追加します。
- データの整合性を保つために「変更セット要求を実行する」によりトランザクション処理を行います。
実際のユースケースの紹介
ここでは、実際のビジネスシナリオでこの方法がどのように役立つかを具体的に紹介します。
ユースケース1: プロジェクト管理
ある企業では、プロジェクトの進捗状況をスタッフ全員で共有する必要がありますが、特定の機密情報はプロジェクトマネージャーのみがアクセスできるようにしたいと考えています。この場合、プロジェクトの進捗状況は共同作業テーブルに保存し、機密情報は非公開テーブルに保存することで、情報の適切な共有とセキュリティ管理を実現します。
ユースケース2: 顧客情報管理
顧客情報を管理する企業では、一般的な顧客情報は全スタッフがアクセスできるようにし、特定の個人情報や取引情報は営業担当者のみがアクセスできるようにしたいと考えています。この場合、一般的な顧客情報は共同作業テーブルに保存し、個人情報や取引情報は非公開テーブルに保存することで、情報の適切な管理を実現します。
まとめ
Power Automateを使用して、Dataverse内のデータを情報共有の有無に応じて共同作業テーブルと非公開テーブルに振り分ける方法について紹介しました。この方法を実装することで、情報の適切な共有とセキュリティ管理を両立させることができます。業務の効率化と情報セキュリティの向上を目指して、ぜひ試してみてください。